旭川家庭裁判所 昭和44年(少ハ)11号 決定 1969年10月07日
本人 M・H(昭二四・一・二〇生)
主文
本人の北海少年院における収容を、昭和四四年一〇月二五日まで継続する。
理由
一 収容までの経過
本人は、当庁昭和四三年(少)第一五〇一号、第一六四四号、第一六五七号窃盗保護事件につき、同年九月二八日当庁裁判官により中等少年院送致の決定を受け、同年一〇月三日北海少年院に入院した。
二 本件申請の理由
本人は、入院後二級下に編入され、以来成績良好で、昭和四四年一月一日に二級上に、同年四月一日に一級下にそれぞれ進級し、同年七月一日には処遇の最高段階である一級上に達したので、このままで推移するときは、同年九月二七日をもつて退院の運びとなる。しかし、本人は、昭和四三年一一月五日当院の職業訓練課程の仕上科に編入され、目下訓練課程にあり、職業訓練法による二級技能土の技能検定の受験資格である訓練期間一年、訓練時間一八〇〇時間の基準をいまだ満たすに至つていない。本人の退院後のことを考えると、是非この機会に受験資格を得させるのが相当であるから、当院における収容を同年一〇月三一日まで継続すべき旨の決定を求める次第である。
三 当裁判所の判断
当庁家庭裁判所調査官中村正義の調査の結果(本人、本人の兄M・K、北海少年院における担当教官菅井孝吉につき面接調査)及び本件審判期日における本人、本人の兄M・K、法務教官松田功の陳述の結果を総合すると、次のような事実が認められる。
(一) 本人は、入院以来違反や事故は一度もなく、成績はおおむね良好であり、昭和四四年七月一日付で処遇段階一級上に進級した。
(二) 本人は、昭和四三年一一月五日院内の職業訓練施設である樽前職業訓練所の仕上科の課程に編入され、昭和四四年九月三〇日までに訓練時間一三〇〇時間強を終えたが、職業訓練法による二級技能士の技能検定の受験資格である訓練期間一年、訓練時間一八〇〇時間(最低限その八〇パーセントの一四〇〇時間)の基準を満たすにはなお日数を要し、同年一〇月二五日をもつてようやくこの基準に到達することができる(もつとも、受験資格としては、更に四年以上の実務経験が必要である。職業訓練法第二六条第一号、同法施行規則第三九条第四号参照)。
(三) 本人は、退院後はかつて勤務したことのある○○運輸株式会社(旭川市○○通○丁目)に自動車運転手として就職することが内定しており、今のところ仕上げの仕事で身を立てて行く希望はない。
(四) 従つて、本人としては、一日も早く退院することを望んでいるが、本人の保護者は、本人の将来を考え、技能検定の受験資格を取得するための収容継続はやむを得ないものとしており、本人もまた、当庁家庭裁判所調査官に対し、受験資格を取得したい意思を表明している。
以上の事実を総合して考えると、本人が在院中に二級技能士の技能検定の受験資格を取得しても、既に退院後の就職先が内定している本人としては、これを有効に生かす途がないわけであるが、本人にかかる少年調査記録に顕われた本人の性格、職歴、家庭環境その他諸般の事情に鑑みると、上記受験資格の取得が今直ちに役立つことはないとしても、成人に達して間もない本人にとつて、近い将来何らかの事情によつて転職する機会が全くないとはいえず、その際上記受験資格を活用して有利な職に就く可能性もあり得ると考えられる。かような事情に加え、本人及び保護者の希望を参酌すれば、この際、在院中に上記の受験資格を一部にせよ取得させておくことが最も望ましく、満期をもつて退院させることは適当でないものといわなければならない。
そこで、関係者の意見を聞いた上、本人の収容を、上記受験資格取得に必要な最低限度の期間である昭和四四年一〇月二五日まで継続するのを相当と認め、少年院法第一一条第四項に則り、主文のとおり決定する。
(裁判官 青木敏行)